「羊と鋼の森」覚書き 原民喜 瀬川冬樹

主人公が調律の陥穽に落ちて、仕事の行方に途方にくれます。
憧れの上司に目指す音について訊ねます。

上司、板鳥(三浦友和)がそこで引用したのはある作家の文章でした。
それは映画の主題ではないけど、バックボーンにあたる聞き捨てならない言葉でした。
私は二回映画を見たけど、作者名は聞き取れず、
文章は断片的にしか覚えられなかった。

家に帰って公式Webサイトをみたけれど、
何も触れてない。
仕方ないので、断片的にしか覚えてない語句でネット検索した。
ようやく分かった。
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原民喜(はら たみき)の文章で、

明るく静かに澄んで懐かしい文体
少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体
夢のように美しいが現実のようにたしかな文体

これは、原民喜堀辰雄から送られてきた作品に対して、自分の目指す文章について語ったものだ。
堀の文章を原は、
「荒涼としたなかに咲いてゐる花のやうにおもはれた」
と評して、自分の目指す文章について書いた。

明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きびしく深いものを湛へてゐ
る文体、夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体……私はこんな文体に憧れてゐる。だが結局
、文体はそれをつくりだす心の反映でしかないのだらう。
原民喜『砂漠の花』
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明るく静かに澄んで懐かしい音
少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている音
夢のように美しいが現実のようにたしかな音
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原作「羊と鋼の森」は、ピアノの音や音楽をきめ細かく文章化しているらしい。
それはおそらく、原民喜の文章に触発されたからだろう。

オーディオファンの一人として、音や音楽を語るときに、
なかなか上手い表現が出来ない。
羊と鋼の森」を読んでおくと、そういう場合に困ることが無いかもしれない。

瀬川冬樹氏なら、存命だったら繰り返し読んでいることだろう。

オーディオ愛好家の書棚に「砂漠の花」を見つけたら、
一目も二目も置いてしまうと言うか、
怖くて近づけないかもしれない^^;)。

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